ヤンとカワカマス
町田 純 (著) 未知谷 ¥1050 (税込)
どのカテゴリーに入れようか本当に迷いましたが、
児童文学ではないと判断して「小説」へ。
大人に読んで欲しい、素敵なお話です。
この本は、ちょっとオススメしづらい本です。
私はとても好きなのですが、好みは分かれるかも。
童話やファンタジ-を読んで考えるのが好きな人向けです。
内容については、読んでみていただかないとなんとも言えません。
そんな紹介ありか!?って気はするけど、この本については
「言ってしまうと失われるもの」がたくさんあると感じるので。
あらすじや作者の意図などではなく、私が好きと感じたことをお伝えして
読んでみたいと思っていただければ幸いです。
この本の中では、時間がとてもゆっくりと流れています。
ヤンという名の、一人で静かに暮らす猫。
広々としていてあざやかで、ふと寂しくもある草原。
そしてカワカマス。(←重要です)
物語の中に出てくるキャラクターや小道具のひとつひとつが
物語において重要であり、世界観を生き生きとしたものにしています。
サモワールで沸かしたお茶、小一時間ほどの会話、散歩。
直したばかりの蝶番、銀色の川、名の日のお祝い。
天気や時刻によって刻々と変わる風景の描写。
とてもきれいな景色、とてもきれいなこころ。
でも読み終わった後、きっと「え??」「ん??」と
何か解決されない気持ちになると思います。
それは謎を残して終わる、というのではなくて、
その草原に浮遊しているような、風船の手を放してしまったような、
捉えどころのない不思議な気持ちです。
そのあざやかな草原の描写と
不思議な気持ちを残すストーリーによって、
作者があとがきでも書いているように
きっとあなたもその草原に閉じ込められてしいます。
その不思議な気持ちを抱えて草原をさまよってみたい方は
ぜひ手にとってみてください。
あざやかな秋の草原がこの本の中にありますよ。
追記
惜しむらくは「まえがき」と「あとがき」がちょっと長くて
草原に浮遊するあなたの足を引っ張るかもしれません。
どんな本でもそうだけど、読後感を楽しみたい方は
「あとがき」を読むのは少し後にすることをおすすめします。
さとこ