トペトロとの50年
●トペトロとの50年 -ラバウル従軍後記- ●
水木しげる(著) 中公文庫 ¥720
私は水木しげるさんが好きだ。
そしてここだけの話、妖怪はいると思っている。
私が水木さんの本を知ったのは小学生の頃。
近所で行われたバザー(フリマではなくて)で
カバーの無い漫画本の鬼太郎を¥10で買ったのがキッカケです。
画が緻密で暗くてアニメの鬼太郎の世界とは全く違って
一人で読むのがちょっと怖かった。
だけど登場人物は明るくてちょっとトボけていて
水木さんの描く水木さん本人も情けなくて(良い感じという意味)
ベッドの脇の本棚に置いて時々読んでいました。
その水木さんご本人が『鬼太郎の世界は彼らに似ている』と
言われるご本ならば読んでみたい!と手にとったのがこの本。
最初私は「ラバウル従軍後記」というサブタイトルから
てっきり水木さんが爆弾でやられた片腕の事や片腕を
無くしてからの苦悩などが多く描かれているのかと思っていた。
それは間違いだった。
事故のことはあっさりと文章の中に組み込まれただけで
当たり前のように語られていたのだ。
その事は私にはとてつもない事のように感じられた。
終戦間際、ラバウルに住もうと思ったこと
戦後、美術学校に通いながら紙芝居を描いていたこと
貸し本屋をやったり友人とヤミ商売をしていたこと
そんな生活の中『南方のきれいな緑とのんきな土人たち』
をいつも想い出していたということ。
[本人注釈(『土人という言葉は自然人という意味で、
バカにした訳ではない』)と書かれています。]
デビュー前の水木さんの絵も面白い。
そして、日本の戦後の日常も。
『一年に一回くらい、アメリカのチョコレートを
口にするが、うまくてアゴがはずれそうだった』
これは神戸で貧乏紙芝居絵描きをやっていた頃の話。
物凄い表現に圧倒された。すごく伝わってくる。
「ゲゲゲの鬼太郎」や「河童の三平」や「悪魔くん」を
世に出し、南方に“復帰する”軍資金を貯めた水木さん。
そこからの水木さんは担当編集者の目をごまかし
「ちょっと眩暈がする・・・」などと言っては
しょっちゅう日本を逃げ出していたのだそう。
『南方から戻ると彼らの奇妙な踊りと
音楽を聴くのを常としていた』
戦時中にお世話になった大親友のトペトロとの再会。
そして、50年の交遊の末の突然の別れ。
『“土人”という言葉は尊敬の意味で“土の人”
というのは私は昔からあこがれだったのだ。』
水木さんは妖怪みたいだ。
私は妖怪みたいな人が大好きだ。
水木さんと仲良しの荒俣さんの本も読んでみたい。
(水木氏は“アリャマタコリャマタ”と呼んでいる)
AKANE