熊谷突撃商店 | TOTAN オススメ本

熊谷突撃商店

            熊谷突撃商店

●熊谷突撃商店●
ねじめ正一(著) 文藝春秋 ¥1733

私の中の「理想の女」像は実に様々だ。

作家で言えば例えば田口ランディさん。
(実は大好きなのに恐れ多くてご本を紹介できずにいます…)
家族を持ちながらも日々を驚いたり楽しんだり
フットワークの軽さと柔軟さにとても尊敬しています。
勿論執筆の苦労も多大にあるだろうけど私の憧れの女性。

例えば銀色夏生さん。思えば私の中学生時代の夢は
「詩人兼作家兼アーティスト兼シンガーソングライター」だった。
しかもそんなにいろんな職を持ちながら南の島に住んでいること。
(銀色さんが南の島に住んでる訳ではありません)

今日ご紹介するこの「熊谷突撃商店」の熊谷キヨ子さんも憧れの人。

女優、熊谷真美さんと松田美由紀さんの母であり
それはつまり松田優作さんのお母さんなのだ。

紡績工場で働くキヨ子は二十歳で結婚をする。
カミソリで顎まで切ってしまうような「ダメ男」の夫と
やがて女優になる娘たちを抱えながら洋品店を切り盛りする。
ウィンクしないニセダッコちゃんを売る「ダッコちゃん戦争」
をも潜り抜け、夫に振り回され続けそれでも心から夫を愛した。

浮気を繰り返す夫に半狂乱になりながら言い寄るが
不思議と別れる気にはならなかったという。

『 佐智子(キヨ子の姉)は「別れなさい」と言い、
  「子どもに引きずられて別れられないというんなら、
  間違ってるよ」と言うのだが、それは違う。
  商売でもまして金でもなかった。
  世の中に熊谷俊男という男は二人といない、
  そのことがキヨ子を俊男から離れさせないのだ。 』

この人の女っぷりに惚れてしまった。

鏡の前で一人、下着姿で「うっふふん」と言うしぐさも
自分の亭主を寝取った相手の家に押しかけ叫ぶ姿にも。

キヨ子は決して「強い女」ではないのだと思う。
だけど愛に溢れている人なのだ。
それは時に「弱さ」となってキヨ子を襲い
「底抜けの明るさ」になってキヨ子自身を救う。

残念ながらもうキヨ子さんご本人にお会いする事はできない。

だけど私は、自分がこの本に出逢えたことに
キヨ子さんの人生に少しでも触れられたことに感謝したい。

「女に生まれて良かった」
「こんな女になりたい」

そんな風に思わせてくれる私にとっては衝撃の一冊です。

[この本を原作にした熊谷真美さんの一人芝居もあります。]

AKANE